インテリアデザイナー 竹内三ツ木の  日本近代建築紀行
 
Vol.202

旧 弘前市立図書館(弘前市)
 

 桜の三大名所の一つ、ここ弘前城址公園も今は花の季節を過ぎ、夏の青葉に変っている。追手門を出て左に曲がると弘前市資料館があり、ねぷた祭の飾りやこの地方の特産品等が展示されている。受付で旧弘前図書館の場所を尋ねると、東京の丸の内あたりのビジネス街にでも居る様な若い受付嬢はきれいな標準語ですぐ裏にある場所を教え地図を渡してくれる。東北なまりの返事を想像していた思いは完全に裏切られたが、教えられた方向の出口をくぐると、そこはもう目指す明治建築の庭の一部である。
 玄関前の広場はカラフルなカラータイルが貼られ、梅雨の晴れ間の日差しは意外に強くその幾何学模様に建物の影が落ちて見事な直線美である。木造三階建てのこの建築物の生涯は明治三十九年三月、当地の事業家斎藤主等数人の資金提供により完成した時から始まる。設計施工は、提案者の一人でもある弘前の棟梁堀江佐吉である。彼は、次世代の人への手本になる様にと当初の予算を大幅に変更して立派な建物に仕上げた。木造でありながら三階建ルネッサンス様式のこの建物は八角形の塔を左右に持ち、鉄板葺の屋根や飾りが、漆喰塗の白壁に映え見事な調和を見せている。規則的に並んだ縦長の窓はあくまでも繊細であり、ルネッサンス様式とは言え各階の庇は木造である為か、持送で支え日本的な工夫が見られるが、洋風建築に完全に馴染ませてしまうこの棟梁の力量には感服する。
 
 今は郷土の出版物や文芸団体の資料が展示されている内部は、板敷の床は暖かく、背の高い窓からは光が燦燦と注がれて居て、当時この部屋で本を読み勉学に励んだ明治、大正の市民の姿が目に浮かぶ。
この建物は昭和六年まで図書館として利用された後、堀江家に払下げられ移築されたり主が替わったりと転々とした。その間下宿屋として使われていた時期もある。平成二年、現在の場所に移築修復され、県の重宝に指定されている。
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