インテリアデザイナー 竹内三ツ木の  日本近代建築紀行
 
Vol.203


三井倶楽部(東京 三田)

 インテリアプランナー協会から三井倶楽部の見学会募集のFAXが届いたので早速応募した。同時に百数十年前、遠く英国から明治政府に雇われて、日本の建築界の発展の為に43年もの永い間、尽力し日本の土となった、我が建築界の恩人J:コンドルに触れられる喜びが、私の心中で大きく膨らみ始めた。
そして数週間後の午後、JR田町駅で下車した私は、長い坂道を上って行った。早めに着いた門の前には数人の協会の仲間が居るだけであったが、私は早速外観からじっくり観察する事にした。
 大正二年に建てられたこの建造物は、煉瓦を基本構造材に使い、鉄骨の小屋組を乗せている。白いタイルを貼った外壁は、当時としては斬新であったろうと思われる。隅石に御影石を積み、勇壮で堂々としているが、計算された一つ一つのパーツからは繊細さを感じる。しかし、決して冷たさはなく、このルネッサンス様式の丹精な佇まいからは暖かさも感じられる。予定の時間が来て中に入った。
 幹事からの簡単な説明の後、三井倶楽部の支配人さんの案内で内部を観せて頂いた。ここは今も現役で使われて居り、三井グループの部長以上とその家族の社交場として、又結婚式場として働き続けて居るのである。各部屋にはコンドルの神経が隅々まで行き届いて、高い天井に、背の高い窓、一部バロック様式的とも思われる部分もあるが実に調和の取れたインテリアである。日本歴史上、重要な部分の舞台に何度かなった部屋も在り、大正から昭和の時代を思いながら観て回った。この建造物のインテリアでの圧巻は何と言っても玄関ロビーから二階への階段廻りである。均整の取れた階段と手摺があり、その上の吹き抜けは楕円形に抜かれていて、その廻りには漆喰による細かい彫刻が整然と並べられている。”暁英”と言う雅号を持ち日本画を描き、日本文化に関する著書も多い晩年のコンドルと腕のいい左官職人との間で、この彫刻に付いてどんなやり取りが有ったのだろうか。
 
 中央に噴水のある裏庭へ下りて見るとベランダから見下ろした時よりも幾分広く感じられる。ここから見上げるこの建造物は一層ルネッサンス様式を強く感じ、観ているだけで心落ち着く。カーブした石段を降りると、そこは広大な日本庭園でありここも心休まる。
 最後に今も使われているBARを観せて頂いた。支配人さんの120年物と言うウイスキーのボトルは蒸発を防ぐ為か、蓋の廻りがしっかりと蝋で固められていた。
 英国生まれのコンドルも同じスコッチを飲んだのだろうか。
 私は百年前の日本の建築界で働いた人たちへの思いが限りなく深まって行き、ここで飲んだコーヒーの味は忘れないだろうと、思いながら田町駅への坂を下り始めた。

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